前回の『投資信託の基本 コストと税金』からの続きで、今回は投資信託のリスクとリターンをFPが解説します。
投資信託だけでも約6,000種類。その本数の多さだけでもかなりの数にのぼり、そこからさらに自分が投資したい投資信託を選ばなくてはなりません。
そこで少しでも投資信託選びのサポートができるように、前回のコストと税金、そして今回解説するリスクとリターンを理解し、より良い投資信託を見つけれたらと思います。
実際にある投資信託の目論見書(ディスクロージャー)も図解にして、わかりやすくシンプルに解説していきます。
記事の終盤は簡単な計算式でできる投資の利回りや、エクセルなどの表計算シートを使っての投資の利回りの方法などをできるだけ簡単に解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
また資産運用についてざっくり知りたい方はこちらに主な金融商品なども解説しています。『図解で解説!将来のお金を考えよう』
目次
投資信託のリスク
自分の大切なお金を預けて運用する以上、投資する商品に対してのリスクを理解しなければいけません。
投資でいうリスクとは不確実性を意味し、株でたとえると株価が上がる、下がるどちらに対してもリスクという言葉を用います。
利益や損失がどの程度発生するのか不確実なため、リスクというワードで表現されています。
リスク=危険性および利益・損失の不確実性とセットで覚えるようにしましょう。
純資産総額によるリスク
投資信託選びの際にみるポイントは、まずは純資産総額の推移をみましょう。純資産総額とは、時価総額から信託報酬などのコストを引いた額となります。
投資対象銘柄の分散、豊富な資金による安定運用、また規模の経済性によるコストダウンなど、基本的には純資産総額は大きい方が良いといわれています。
上記図は楽天・全米株式インデックス・ファンド(通称、楽天・バンガード・ファンド全米株式または楽天VTI)のYahoo!ファイナンスおよび目論見(ディスクロージャー)です。
目論見ではタイムラグが出てしまうので、基準価額や純資産総額はネット経由で確認しましょう。
純資産総額が小さいことによる1番の問題点は繰上げ償還となりうるおそれがあるからです。
繰上げ償還とは、簡単にゆうと運用途中で投資している投資信託が終了してしまうリスクです。
償還日(満期日)があるものは償還日を迎える前に償還されるおそれがあります。
分配金の支払い後などで、一時的に純資産総額が下落している場合は特に問題はありません。
純資産総額が小さくなる主な要因として以下のものがあげられます。
- 基準価額とともに純資産総額も下落しているパターン。これはファンドの運用成績が悪化しているパターンです。〇〇ショックなど金融市場全体が混乱期などで短期的に下落している場合は問題ありませんが、あまりにもベンチマークとしている指標と比較して乖離が大きい、また同じような他の投資信託と比較して下落が著しいとなっている場合は注意が必要です。
- 基準価額は下落していなくて純資産総額だけが下落している。このパターンは投資家からの資金流入が低下、または解約数の増加が考えられるます。
人気のある投資信託は資金流入も多く、解約数も少ないことが多いので、純資産総額の推移は投資信託の購入前、そして購入後も月次レポートなどは定期的にみるようにしましょう。
ファミリーファンド方式
ファミリーファンド方式とは、ファンドの子となるベビーファンドで、親となるマザーファンドに投資する方式です。(下記図参照)
楽天VTIの目論見を参考に、こちらの投資信託はファミリーファンド方式となっています。
ファミリーファンド方式をとることで、運営・管理の効率化と管理コストを小さくできるなどのメリットがあります。
純資産総額は大きい方が有利と書きましたが、同じベンチマークに連動するインデックスファンドのような投資信託を比較検討する際は、ベビーファンドの純資産総額が小さくても、その先にあるマザーファンドの純資産総額の規模が大きければ問題ないと言えます。
投資信託を選ぶ際の目安として、純資産総額は100億円以上ある投資信託を候補に入れましょう。
それに加えて同じような投資対象に投資する投資信託の純資産総額と比較することです。
投資のリスク
投資信託のリスクには、元本割れリスク以外のリスクも理解する必要があります。
上記図の楽天VTI目論見書にある基準価額の変動要因のところにも6種類のリスクが記載されています。
- 価格変動リスク
- 株価変動リスク
- 為替変動リスク
- 流動性リスク
- 信用リスク
- カントリーリスク
中長期での運用が前提である投資信託では、コロナショック(リーマンショック含め)のように一時的に基準価額が下落しても、その後は元に戻ることの方が多いので、投げ売りするのはやめた方がよいと言えます。
また外国資産に投資する場合は、為替変動リスクに注意する必要があります。円安時では相対的に資産が増え、円高時は資産が減る傾向にあります。
為替変動により日本の株式市場などにも影響を及ぼすことがありますが、投資信託などの資産運用ではまず外国資産の変動に注意すればいいです。
投資信託のリターン
投資信託が年間および運用期間中どれくらいの収益(利回りまたはリターン)を得たのか?自分のお金を増やすために投資するので、収益面もチェックするようにしましょう。
また過去の実績となるトータルリターンについてもこちらで解説します。
簡単な投資収益の計算方法から、効率よく投資収益をあげられているのかをみるシャープレシオに関しても解説していきましょう。
投資信託のトータルリターンとは?
投資信託のトータルリターンとは対象期間において、その投資信託がどれだけのパフォーマンスを上げれたのかという成績表みたいなものてます。
値上がりまたは値下がりを含めた投資の利回りを示すものです。
またトータルリターンは純資産から差し引かれる信託報酬は計算されていますが、販売手数料および解約手数料は計算されていないので注意が必要です。
また投資家に対して投資信託の収益をわかりやすくするために、2014年からトータルリターンの通知が義務付けられました。
トータルリターンの計算方法は上記図になります。
トータルリターンの計算方法は単利と複利のどちらかになります。
- 単利の場合は分配金を受け取ったものとみなす
- 複利の場合は分配金を再投資したものとみなす
いずかになります。単利と複利の違いは後ほど解説します。
トータルリターンの計算方法はだいたいが複利による計算、すなわち分配金を再投資したものとしてあらわされています。
上記図の楽天VTIを参考にすると、トータルリターン1ヶ月の場合は前月末から遡り直近1ヶ月のリターン。5年のリターンの数値は過去5年間の年平均リターンという意味です。
過去の実績ですので、今後も同じパフォーマンスを維持できるかはわかりません。短期よりもデータの母数が多い長期間のデータのほうがより信頼性はあるといえます。
Yahoo!ファイナンスやモーニングスター、証券会社のWebサイトでも確認することができますので、投資信託選びの際は過去の運用実績なども参考にしてみてください。
単利と複利
長期にわたる資産形成を行う上で覚えておきたい利回り計算の一つに、複利運用があります。
単利とは、最初に投資した元本にのみ利息ついていくという意味です。利回り5%で100万円を最初に投資した場合、2年後も3年後も利子収入で残高が増えても、当初の100万円のみにしか利息が付かないことを単利といいます。
複利とは、利回り5%で100万円を投資した場合、1年後は105万円に増え、その105万円が新たな元本として利息収入の原資産となる考え方です。
視覚的に表すと以下のグラフになります。
元本と利回りが同じでも単利と複利では利回り曲線の上げ幅、また10年後は12万9千円も複利の方が多く資産が増えています。
長期にわたる資産運用では複利パワーは無視できないといえるでしょう。
単利と複利の計算式は上記図となります。
またもう少し掘り下げて知りたい方はこちらの記事も参照してみてください。
ポートフォリオ理論
では少し踏み込んでポートフォリオ理論での投資収益指標をみていきましょう。
まずポートフォリオとは、投資した資産の組み合わせのことで、主に個別銘柄の組み合わせのことをさします。株式投資でいうなら株式のみの資産で複数銘柄の株をもっている状態です。
そして株式ほか、国内外債券、外国株、不動産などより大きな資産クラスの組み合わせを、アセット・アロケーションといいます。
複数の銘柄を組み合わせたポートフォリオ運用を行うことでリスクの分散と安定した運用を目指すことができます。
ポートフォリオ理論の指標 投資収益率
まずは単純に、投資した商品がどれくらい収益を上げたのかをみる投資収益率です。(計算式は下記図)
利回り(%)=投資収益÷投資額×100で求めることができます。
また複数年運用した場合の年あたりの平均収益は
年平均利回り(%)=(投資収益÷年数)÷投資額×100で求めることができます。
ポートフォリオ理論の指標 期待収益率
ポートフォリオの期待収益率とは、個別証券および個別の金融資産の期待収益率をポートフォリオの構成比で加重平均したものに等しくなるという考え方です。
言葉ではややこしいので図でみてみましょう。
期待収益率のことなる3つの資産がありますね。それぞれの保有率が上記の場合と仮定して、1%×0.5+5%×0.3+10%×0.2=4.0%になります。
リスク分散による考え方で、万が一いずれかの資産が下落しても他の金融資産で損失をカバーするという意味です。
株式投資でも一つの株を一点買いするよりも3〜4種類の異なる業種などを保有して、損失を最小限にし収益率を安定させたりします。
バランス型の投資信託では、元本割れリスクの少ない債券を組み入れたりしてリスク分散を図っています。
投資の格言で『たまごを一つのカゴに盛るな』という言葉があるように銘柄も分散させることが大切といえます。
ポートフォリオ理論の投資指標 標準偏差
標準偏差とはデータのばらつきを示す指標です。運用中の対象期間の利回り平均値と、年ごとの利回りにどれだけブレがあるかをみる指標になります。
計算方法まで覚える必要はありませんが、高校数学の教材、エクセル関数のSTDEV.Pで求められます。
リスクのブレ度合いを示していると覚え、数値が大きいほどリスクが高く、数値が低いほどリスクが低いと思っていただければいいです。
標準偏差を正規分布図で表すと以下になります。
理論上では収益率は68.26%の確率で±1σ内におさまり、最大を仮定しても95.45%の範囲となる±2σにおさまることを表しています。
具体的に活用する場合、『ある投資商品の期待リターンが5%、リスクを15%とした場合に1年間で最大何%の損失が出る可能性があるか』をみるのに使えます。
計算は【期待リターン】−【リスク】×2(σ)できます。
5.0%-15%×2=-25%となり
100万円を投資した場合の最大下落幅は100万円-25=75万円まで値下がりするということになります。値上がりの場合は125万円まで。
±95.45%の確率で±2σの範囲、125万円から75万円の間になると予測するのに使えます。
投資の効率性 シャープレシオ
リスクのブレ度合いを量る標準偏差を説明し終えたところで、最後に投資の効率性をみるシャープレシオについて説明します。
投資の効率性シャープレシオとは、利回りのいい投資商品でもそれがリスクの高い商品で運用されたのか、またはリスクの低い投資商品で効率よく高い利回りを得たのかをみる指標となります。
シャープレシオを数値で表され、数値が高いほど効率よく運用できていることを示し、目安としては0.5〜0.9が普通、2.0以上が非常に優秀といえます。
計算式は以下の図になります。
シャープレシオはリターン÷リスクで計算され、安全資産の収益率とは預貯金などの元本が保証されている資産のことをさします。
数値が大きいほど投資効率がよく、数値が小さいほど投資効率がよくないと覚えましょう。
シャープレシオはYahoo!ファイナンスや投資信託のガイドブックにも記載されていますので、投資信託選びの参考にしてください。
金融資産ごとによるリスク・リターン
最後に金融資産(投資商品)ごとによるリスクとリターンの関係性を一覧でグラフに記しました。
左下にある債券などはローリスク・ローリターン、右上にいくほど新興国の海外株式ファンドのようにハイリスク・ハイリターンとなります。
番外編 エクセルで利回りの計算をしてみよう
単利と複利の計算以外にも、エクセルやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトでも簡単に利回りの計算ができます。
POWER関数
当初元本と年率利回り、そして運用期間が予めわかっているのなら、POWER関数で最終的な元本がわかります。
式は【終価】=【元本】×POWER(1+年利回り%,年数)
図に倣うなら、当初元本100万円、利回り5%で10年間運用する
1000000×POWER(0.05,10)=1,628,895円となります。
もう一つ、当初元本と満期の運用結果と運用期間がわかれば、どれくらいの複利率かも求めることができます。
計算式は【複利率】=POWER(終価/元本,1/年数)-1となります。
POWER(2000000/1000000,1/10)-1=7.2%と複利率を求めることができます。
FV関数
FV関数を使うと、毎月積み立てたお金が満期日にいくらになるかを計算することができます。
計算式は=−FV(利率,期間,毎月積立額,現在価値,満期日)で計算できます。
図に倣って当初元本なしの場合は=-FV(0.05/12,120,10000)=1,552,823円になります。
ポイントは年率を月利(5%/12)に、年数を月数(10年×12ヶ月)とすることです。
また当初元本に10万円を投資する場合は、=-FV(0.05/12,120,10000,100000)=1,717,524円となりました。
このようにPOWER関数とFV関数を使うことで投資の利回りから満期金まで求めることができますので、ぜひ活用してみてください。
まとめ
投資信託のリスクとリターンについて理解できたでしょうか?
純資産総額、トータルリターン、シャープレシオ、標準偏差と、この4つの指標を見ればパフォーマンスの良い投資信託に出会えるはずです。
投資信託を比較する際は、インデックスファンドなら同じようなベンチマークに投資する投資信託、アクティブファンドならアクティブファンドの別の投資信託と、同じカテゴリ内の商品と比較することがポイントです。
運用成果が異なるインデックスファンドとアクティブファンドで比べてもコストやリターン、リスクなどは異なるからです。
今後も投資信託の大まかな違いなどを解説していきますので楽しみにしていてください。
では最後にFPの筆者が実際に読んで投資信託や金融の知識習得に役立つ書籍を紹介したいと思います。
FPオススメの投資に役立つ書籍3選
朝倉智也監修 『はじめての投資信託』
金融情報サイトのモーニングスター株式会社社長 朝倉智也さん監修の『はじめての投資信託』投資信託について私が一番におすすめする一冊です。投信信託の種類からリスク、リターン、コストなどこれから投資信託を始める上で基本となる知識を図解入りでP190ほどにまとめられていて大変読みやすくわかりやすい内容となっています。
角川総一著 『金利とお金のことが3時間でわかる本』
証券金融専門誌の執筆を経て、現在は株式会社金融データシステム代表の角川総一さんによる『金利とお金のことが3時間でわかる本』。投資を行う上で切っても切り離せないのが金利。利回りの考え方から計算方法、身近な暮らしに関わる金利をわかりやすく丁寧に解説されている一冊です。
角川総一著 『なぜ日本の金利は常に米国よりも低いのか』
続いて同じく角川総一さんによる『なぜ日本の金利は常に米国よりも低いのか』。現在(2022年)の金融市場の変動性の高まりは米国を中心とした世界的な金利上昇による面が大きなウェイトを占めています。政策金利が変化すると株価や為替、景気や物価などに影響を与えたりと金融市場の変動が高まります。投資信託のリスクにも価格変動リスクや為替リスクなどがあり、これらのリスクを金利の動向と密接に関わってくるので、投資デビューをするなら金利の勉強はマストと言えます。
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