ファイナンシャルプランナーが教えるお金の講義。今回は金利変動と株価、為替の関係をわかりやすく解説します。
まずは金利とは何ぞやという方は以下の過去ブログで詳しく説明していますので、そちらからご覧いただくとより理解できるかと思いますので、よろしくお願いします。
目次
はじめに
日本国内の金利は日銀の金融緩和により低金利が続いています。世界では新型コロナウィルスで落ち込んだ景気を回復させるために大規模な金融緩和により低金利になりました。
その金融緩和により市場に出回ったお金が企業活動を支援したり、または投資マネーとして金融市場に流入したりして、アメリカの株式市場などはコロナ前よりも株価が上昇しました。
金融市場が加熱気味になり世の中にあふれたお金が出回るようになり、今度は物価指数の上昇といったインフレが懸念されるようになり、アメリカを中心に金利を上げるために金融引き締めに舵を取り始めました。
金融引き締めで金利が上昇していくことで景気が後退することを嫌気し、投資家心理を悪化させることで、それまで上昇基調だった株式市場は不安定な相場になりました。
そこで今回は日本とアメリカの10年国債長期金利と各経済指標を参考にして、前半は景気・物価・株価・為替による金利の変動関係を、後半は金利が変動すると経済にどんな影響を与えるのかをわかりやすく解説していきましょう。
なぜ金利が動くのか?
それでは実際に景気・物価・株価・為替が金利にどんな影響を与えるのかを見ていきましょう。まずは図をイメージしながら全体を見ていきましょう。
景気による金利変動
不景気のときは金利が下がるようになります。なぜなら落ち込んだ景気を刺激して、景気を上げていくため日銀は金融政策を通して金利を下げる方向へ誘導します。
すると企業への貸出金利が下がり企業がお金を借りやすくなるので、生産工場の機械受注などの設備投資や人員の確保などを行えるようになります。
そうすることで企業は生産が拡大し、消費も拡大、景気も拡大していくという流れです。
では好景気のときの金利はといいますと、景気がいいときは金利が上がっていきます。
景気がよくなって給料が増えて安定した雇用が増えると、多少無理をしてでもモノやサービスを買ったりしたくなりますよね。
たとえばローンを組んで住宅や車を買ったりなど。そして企業も消費拡大に応えるために製品の生産量を拡大するため、人材確保や積極的な設備投資などのために借入を行なって投資をするようになります。
するとどんどんお金の需要が高まっていきますよね。
銀行は資金を捻出するために国債を売って現金化し、それを企業や個人に貸し出す。
需給関係でお金の需要が高まれば、多少金利が上がってもお金を借りたい人が存在するためです。
一般的に好景気だと貯蓄するよりも消費にまわす人が増えるために、銀行は預貯金への魅力を増すために預金金利の引き上げなどを行うこともあって、どんどん金利が上がっていくという流れです。
※一般的には景気と金利の関係は上記のようになりますが、それは企業にお金が不足しているという前提があってです。個人もしかりバブル崩壊後の日本企業は積極的に設備投資をするよりも、利益を内部に貯めこむようになりました。ようはお金が余っている状態で日銀が金利を引き下げても、新たにお金を借りる必要が減り今までの一般的な景気と金利の関係は成り立たなくなってきました
為替による金利変動
今度は為替による金利の変動関係をみていきましょうか。下のグラフは為替と日本の長期金利の推移です。
円の価値が上がる円高・ドル安を例として、今後も引き続き円高・ドル安が続いていくと市場が予想した場合の金利がどうなるのかを解説していきましょう。
まず一般論としては、国の通貨が上がる見込みがあれば、その国の債券は買われる傾向があるということです。そして債券が買われるということは債券価格の上昇につながり利回りが低下するということです。
円高・ドル安の話でいくと、ドルベースの債券で運用していた日本の投資家がドルを売って円を買って日本国債を買うという流れです。
そしてアメリカの投資家もドルを売って、円を買い日本国債を買う。
国債が買われると需給関係から国債価格が上がるので利回り低下、すなわち金利が低下するということです。
反対にドルが売られて、米国債券が売られるのでアメリカの債券価格が下がり利回りが上がるので、米国の金利が上昇するということです。
一般論でお話をしましたが、上の図でみると1983年ごろから1988年あたりまでは、円高により金利は低下していました。
しかし2012年ごろより円安に振れていますが、金利は上がっていませんよね。リーマンショックなどの影響もあり、この頃の世界各国では超低金利政策を実施しており、今までのような一般論も成り立たなくなってきました。
金融の世界もなかなか複雑なものです。
物価による金利変動(物価が上がると金利も上がる)
経済を読む上では欠かすことのできない物価。とくに現在(2022年)では、消費者物価指数の上昇によりインフレが懸念されると中央銀行による利上げに踏み切るなどのニュースが株式市場を混乱させたりと重要な指数の一つでもあります。
物価の上昇も景気拡大するときと同じように、お金の需要が高まることから金利も上がっていきます。
物価が上がっていくと、今まで安く買えたものが高くなっていくわけですよね。
するとモノやサービスの値段が上がるまでに、はやくモノを買おうとすることから消費が拡大していきます。
そして景気拡大するときと同じように企業も借入を増やし、消費拡大に対応できるよう設備投資や人材確保をおこなうわけです。
個人もモノを買うために預貯金を取り崩し消費にあてたりとお金の需要が高まっていきます。
すると銀行は資金捻出のため国債などを売却するので国債価格低下により利回りの上昇、そしてコール市場での金利も上昇していきます。
銀行も預貯金をしてもらうために預金金利引き上げ、そして景気がよくなりすぎるとインフレなどの悪影響も生まれるので、過度な資金需要を抑えるために日銀は金融政策を通じ政策金利を引き上げるために金利が上昇することになります。
株価による金利変動
株価の変動も金利が動く要因の一つです。下の図のグラフで示したように1989年から2012年あたりまでは日本10年長期金利と日経平均株価は同じように下落していますよね。
株価が上がれば金利も上がる、株価が下がれば金利も下がる、一般的な話ではこのような関係が成り立ちます。
これも一般論としては株が売られる、すなわち株式市場から資金が流出するということは、ほかに買われる何かがあるということです。
その買われる何かが、安全資産として魅力的な国債というわけです。
①株が売られる→②債券が買われる→③債券価格が上昇し利回りが低下、つまるところ金利が低下するということです。
そして下がりすぎた株価を上げるために日銀は政策金利の引き下げを行い、企業の借入をしやすくしたり、預金金利が低下するため預金の魅力が落ちるために株式市場へのマネー流入を図ったりします。
金利も株価も適正な値段というものが存在するということです。
債券と株式、投資信託などはリスク回避のために安全資産である国債が組み入れられているのはこのためなんです。
グラフのように株価の下落に合わせて長期金利も低下していますが、2013年あたりから金利は低金利のまま株価だけが上がっていますよね。
株価が上昇すれば金利も上がるという関係性がなくなりつつありますよね。
この2013年から日銀の異次元緩和と呼ばれる大胆な金融緩和(大量の債券購入)を導入したためです。
株も債券も買われるといったところです。
景気・物価・為替・株価による金利の変動はこのような流れになります。それぞれの指標での要因を説明していきましたが、最終的には点と点が結ばれて線で繋がってきますよね。
金利の上昇が経済に与える影響
ではこの記事もいよいよ終盤。最後は金利が上昇すると経済にどのような影響を与えるのかを簡単にわかりやすく説明していきましょう。
金利上昇と為替
金利が上がると為替も上がっていきます。米国の金利を例にすると、2022年のドル円は1ドル120円台後半と円安になりつつありますよね。
米国の金利がこのところ急ピッチで上昇しているので、先程解説した金利が上がると当該国の国債などが買われるため、その国の通貨の需要が高まるためです。
日本はほぼゼロ金利ですが、米国の金利が1%から3%に上昇すると米国の金融商品の魅力が高まるためドル高円安になっていきます。
金利が上がれば物価は下がる
日銀が政策金利を引き上げるとどうなるでしょうか。
短期金融市場での取引、すなわち金融機関どうしが行うコール市場での貸し出し金利が上がり、それが民間企業への借入金利や住宅ローン金利の上昇につながります。
例えば住宅ローン固定金利1%から3%へ上昇したら金利負担が増えるために住宅購入を控える人が出てきたりしますよね。
そして企業も借入をせず設備投資なども控えるために、お金の需要が減っていくようになります。
モノを買う人が減っていくので物価や土地が下落していくという流れになります。
金利が上がると株価は下落傾向へ(グロース株への影響が大きい)
先程の金利と株価の関係の解説からするとやや矛盾するように思ますが、これにもいくつか理由があります。
株式会社の多くは有利子負債を抱えており、金利が上昇すると利子の支払いコストが増えるために、収益が悪化していきます。
利益率が低下すると一般的にはその会社の株は売られるので下落してしまうのが一つ目の理由です。
そして、金利が上昇すると住宅ローンも上昇するので家を買う人が減りますよね。
一戸建てにしても木材や鉄筋などの建築資材、家具や家電製品などあらゆる資材が集まって一つの家ができるわけです。
家を買う人が減るということは、こういった資材の需要も減るので、建築資材や家電メーカーの売上が落ちるため、株が売られて株価が下落するというのが二つ目の理由です。
そして最後に金利が上昇すると、相対的に国債利回りがよいので株式市場から資金が流出し債券市場へ流れていきます。
預金金利も金利上昇により引き上げられるので、現金を預金する人が増えていくことになるのも株価下落につながる理由の一つです。
株価の中でも特にグロース株(割高株・高PER株などとも)と呼ばれる成長株は、金利上昇への影響が大きいと言われています。
実際に米国株のナスダック指数と呼ばれるハイテク株などで構成されている指数と米国長期金利の関係をグラフでみてみましょう。上のグラフがNYダウで下がナスダック指数です。
2020年2月から4月ごろにかけてはコロナウィルスによる影響でリスク回避の株売りと、経済回復のため金融緩和が行われました。
金利が落ち着いている場面ではナスダック指数は順調に上昇基調ではありますが、急速に金利が上がると一時的にナスダック指数は下降傾向、もしくは上昇スピードが緩やかになっていますよね。
ハイテク株などはグロース株(成長株)と呼ばれ実際の企業価値よりも将来への期待から株が高値でも買われやすい傾向があります。
株価の割安度をはかる指標としてPER(倍)という指標があり、これは株価÷1株あたり純利益(EPS)で求めることができます。
そして株価の割安性をみる指標で株式益回り(%)というものがあります。これはPERの逆数で、1株あたり純利益÷株価×100で求められます。
実際に計算してみましょう。X株はグロース株と呼ばれPERは50倍とY株に比べ割高ですよね。しかし株式益回りで見るとX株は2%、Y株は10%。この益回りがグロース株とバリュー株で比べると利回りが低くなってしまうので、利回りがよい債券に資金がシフトすると一般では言われています。
まとめ
金利が変動する要因と、金利が経済に与える影響の講義はいかがでしたでしょうか。
日本以外の先進国では急速に金利が上がってきております。対する日本(日銀)は指値オペなどを駆使して意図的に低金利を誘導しようとしています。
金利が低ければ住宅ローンや企業の借入金利が低下し景気が回復するようになりますが、金利が上がりすぎると景気後退などのリスクも生まれてきます。
金利は体温と同じで高すぎても低すぎてもよくありません。常に適正な体温、つまり金利水準が必要なわけです。
それをコントロールしているのが、中央銀行(日本は日本銀行)と呼ばれているところです。
過去数回にわたり金利の仕組みなどを解説してまいりました。
金利と債券、日銀の金融政策などを詳しく知りたい方は過去ブログもぜひご覧ください。
そして、次回の講義は『金利で得する人と損する人』と題したブログを執筆予定です。
投資をする人もしない人も、身近な例をとり利回りの考え方などを解説する予定ですのでお楽しみにしていて下さい。
『債券と金利の関係』
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